たかしと父さん
気が付くと僕は昼休みが終わるまで、篠宮さんにずっっっと慰められていた。保健室には他に人がいなかったわけではなかったようだ。よりによって、保健室のババアは入り口入ってすぐには見えない角度にずっと立っていた・・・僕が気付かなかっただけだった。

「なあ・・・新田ぁ・・・他所（よそ）でやれよ。」

保健室の先生が汚物を見るような目で僕を見る。そんな目で見られてもやってしまったものは仕方がない。なぜか篠宮さんがいっぱい謝っている。僕は申し訳ないと思いながらも、結果的に片想いの苦しさからやっと解放された事実になんだか変なテンションになっていて、周りで何が起きているのか分からないというか、なんというか・・・麻痺していた。昼休みが終わってから、どこをどう経由したのか全く分からないけど、放課後、僕は篠宮さんと並んで歩いて帰っていた。

「ねえ、私、新田くんのケータイ知らないよ？」
「え？・・・ああ、ごめん！」

急いでスマートホンを取り出して伝える。そう、気が付くと学校の最寄りの駅の前だった。

「新田くん電車だよね？」
「え？・・・ああ・・・うん。」
「あとでメールするね！」

彼女はそういって手を振って帰って行った。飛び切りの笑顔が小さくなって雑踏に消えていく。

「あとで・・・メール」

どれぐらいの時間だろう、「あとでメール」という言葉が頭の中をやまびこのようにぐるぐる駆け巡っていた。だいぶ時間がたった後、僕はやっと我に返ると、学校に自転車を置きっぱなしにした事実に気づいた。でも、結果的にでも篠宮さんに嘘をつくのは嫌なので切符を買って無理やり電車で帰った。揺れる電車の中でも頭の中では「あとでメール」がぐるぐるしていた。
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