君の名を呼んで
頬を撫でる指の感触に、息を吞んだとき。


「雪姫ちゃあああん!!」


廊下の向こうから響く、すずが呼ぶ声。

あ、そうだった。今日はすずも一緒だった。
あまりの衝撃に危うく仕事中だってことを忘れそうになってたわ……。
や、やばい。さっきキスとかしちゃってたけど、誰にも見られてないよね。

ついきょろきょろしてしまう私の考えに気付いたのか、彼はニヤリと笑った。

「……いくら俺でも、よそ様で公開プレイするようなヘマするか」

……もっと何かマシな言い方ないもんですか。


「ゆーきちゃあん!」

焦れたすずの声に私は慌てて答える。

「はい!今行きます!」

「次!セット移動だよ、早くぅ!そんな鬼畜副社長は構わなくていいからあ」

「……んだとコラ」

城ノ内副社長に可愛らしくべえっと舌を出して、すずは満面のニヤリ顔で背を向けた。こらこら、女優でしょあなた。


「……あいつ絶対ワザとやってるよな」


ぼそりと呟く彼に苦笑を残して、私はすずの元へ向かおうとして。
軽く引かれた腕に、驚いて副社長を振り返ってーー


もう一度。


かすめるように唇に触れた熱からは、逃げられなかった。
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