君の名を呼んで
「城ノ内副社長……」

ダークカラーのジャケットにブラックのパンツ、颯爽と立つ姿はなんだかすごくこの場所にマッチしてて。

うん、カッコイイ……。

居並ぶ俳優にも負けてないその存在感。
私の頭に素直に浮かんだ表現に、頬が熱くなる。
彼はちらりと私を見下ろして言う。

「雪姫、そんなのに捕まってないで営業しろ。次に繋ぎをつけられるように、挨拶しっかりな」

「は、はいっ!」


この場も仕事の一部だと。
厳しい言葉だけど多分、本音は私を助けてくれたんだ。

……にしても今、国民的アイドルを『そんなの』呼ばわりしなかった?

これ幸いと蓮見君から離れようとした、その時。


「あら、初めまして。
噂のBNPの城ノ内さんですわね」


よく通る艶やかな声が響いて。

その持ち主は華やかな雰囲気の、美女だった。
赤いスーツに包まれた身体は、豊満な胸にくびれた腰の文句なしの抜群のプロポーション。
うわあ迫力美人。


「ジェイズの所属事務所、SRIミュージック社長の芹沢です」


……蓮見君の事務所の社長って女性だったんだ。
しかもこんな色っぽい美女。

それよりも嫌な嫌な予感に、ちらりと城ノ内副社長を見る。


「……へえ。どうも」


目を細めて、口笛でも吹きそうな風情。

こっ……この男……!わかりやすい顔して!


この人、“城ノ内副社長の好み”なんだ。

さんざん見てきたからわかる。副社長の『つまみ食い』を。
彼が相手にしてきたのは、丁度こんな感じの有能そうな美女ばかり。


……嫌な予感。


私は顔を引きつらせながら、二人の様子を見守るしかなかった。
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