君の名を呼んで
***

なんなんだろう、この状況。

出勤した私はまっすぐ社長室に呼ばれて。

そこには困惑顔の真野社長と、超不機嫌な城ノ内副社長と、上機嫌な桜里と彼の秘書の姿があった。
そして桜里は来客用のソファーに悠然と腰掛け、口を開く。


「まずはビジネスの話を」

桜里は真野社長に向かった。


「『エアリエル』の日本初出店が決まりましてね。私はエアリエルの専属モデルですが、今回の日本展開にはデザイナー兼プロデューサーとして全権を委任されている。出店イベントは新店舗でのファッションショーと、連動してテレビ、WebでのCMを計画しています。そのイベントにこちらの俳優・モデルをお借りしたい」

彼の示した先には、膨大な資料とBNP所属の俳優・モデルのリスト。
当然というべきか、朔も載っている。


エアリエルの日本初出店……。


思っていたより大掛かりな話に、真野社長と城ノ内副社長の顔に緊張が走る。


「……お話はわかりましたが。なぜ、うちに?」

真野社長が桜里を見て問いかけた。

BNPは急成長してはいるけれど、決して大きな会社では無い。
ショーに慣れているモデル事務所だって他にいくらでもあるはず。

桜里は私を見て微笑んだ。

「完全なる私情ですよ。雪姫と仕事がしてみたかったので」

その言葉に城ノ内副社長が目を吊り上げる。


ああ、怖いよお……。


「……けれど使えないと判断したならすぐに切りますよ。そこまで私は優しくありません」

桜里は城ノ内副社長を見て、冷たく笑った。

二人の間に青い火花が見えるのは、私だけじゃない、絶対。
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