君の名を呼んで
黙って私の窮地を見ていた桜里が笑い出す。

「すみません。私の個人情報はエアリエルとの契約で開示できないんです。雪姫が私との関係を話せば、彼女は莫大な損害賠償を請求される。額は聞かない方がいいですよ」

そう言ってから、ふと思いついたように意地悪く付け加えた。

「彼女と私の関係は、それくらい密接だということです」

「桜里っ!!」

また、皇を煽るようなことを!


「どこまでも、気に入らない……」

そんな呟きが聞こえて、おそるおそる、城ノ内副社長を見れば、彼は憤りに満ちた表情で桜里を睨みつけていた。
そして急に私の手を掴む。

「雪姫、来い」

社長室を出ようとした私達の背中に、桜里の言葉が投げつけられた。


「話はまだ終わってませんよ。……むしろここからが本題かな」


振り返った城ノ内副社長に、彼は冷たく微笑んだ。


「日本でのイベントが終わったら、私は雪姫をイギリスに連れて帰るつもりです」


皇に引かれた手が、強く強く握られた。
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