君の名を呼んで
怖い。

何も言ってくれない、皇が。
何かを言われるのが。

でも、誤解されたくない。


「あの、私本当に桜里とはそんなんじゃ無くて」

「聞かない」

低い声に、ビクンと身体が跳ねた。

「何も、聞かない」


言い訳すら、させてもらえないの?

私の手から、皇の手が離れた。
あの夜を思い出して、胸が詰まる。

もう、私のことなんて好きじゃないのかな。
どうでもいいのかな。

こちらを向いた皇は無表情で、彼の心が見えない。


涙が滲んだ、その瞬間ーー
彼の煙草の香りがして、私の身体は皇の腕の中だった。


「アイツとのことは何も聞かない。だから、一つだけ答えろ」


私を抱きしめる皇のその腕はいつもみたいに強引ではなくて。まるで私にすがりついているみたいに感じて。


「お前は、俺のものだろ……?」


らしくないよ。
鬼畜で傲慢で強引なのが、城ノ内副社長なのに。
どうしてそんなに、不安そうなの?哀しそうにするの?
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