君の名を呼んで
「おかしいよ、絶対」


芹沢社長に追い出されて、私達は真野社長の運転する車の中。
私は検査の結果どこにも異常は無くて、帰宅を許された。
結局蓮見君の顔も見られないまま、病院を後にするしか無くて。


真野社長は厳しい顔のまま言う。

「事故が起こって、こんな短時間で賠償の話まで。用意周到すぎないか」

「はめられたのかもしれないな」

城ノ内副社長が煙草を取り出して言う。
その片手は私の頭を抱き寄せて、自分の肩にもたれかけさせてくれたまま。

「はめられた……?」

「あの事故自体、仕組まれたのかもしれないってことだ」

そんな。

「だって、蓮見君は大怪我したのに」

身を起こそうとした私の頭を、城ノ内副社長が押さえる。

「無理するな。蓮見が噛んでたとは思わねえよ。……あいつがお前を庇ったのは誤算だったのかもしれない」

「事故が起こった、って事実さえあれば良かったのかもしれないし、梶原ちゃんが怪我をしてたら、それはそれで城ノ内から引き離せたんだろうしね」

二人の言葉に愕然とした。


「それじゃまるで、蓮見君も私も、ただの駒みたいじゃないですか……!」


私達のことなんてどうでも良いみたいに。
蓮見君の気持ちも踏みつぶされて、その命まで危険に晒されたなんて。
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