君の名を呼んで
「何の証拠もないし、何とも言えないよ。
だから、城ノ内。お前勝手なことするなよ」

真野社長の言葉に、ハッと気がついた。


『城ノ内さんが欲しいわ』


芹沢社長の言葉を思い出す。


「城ノ内副社長、BNPを辞めたりしませんよね」


彼の顔を見上げれば、煙草に火をつけた副社長が窓の外に顔を向けた。


「私のせいで、本当にすみません。
私何度だって謝りに行きますから、だから」


城ノ内副社長が芹沢社長のものになるなんて嫌。
BNPを、辞めるなんて。


「城ノ内、うちは人身売買なんかしないからね。まったく、最近こんな話ばかりだな」

真野社長がため息まじりに言う。
淡々とした口調の中に、わずかに怒りが混じっていて、私達のことを心から心配してくれている社長の優しさを感じた。


「とにかく、この件はこっちで何とかするから。梶原ちゃんも気にしないで今日は休むこと」


真野社長の言葉に、頷きながらも。
こっちを見ない城ノ内副社長に不安が募っていった。


「城ノ内副社長……?」


ねえ、皇。
何か言って。


けれど結局、車が止まるまで、彼は一言も話すことは無かった。
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