君の名を呼んで
身勝手だと、憎んだ。恨みもした。
けれど桜里を嫌いになることは無かった。
いつだって、その向こうから桜里の情熱が、伝わってくるから。

「今は私もわかるんだよ。仕事の楽しさ。仕事にかける気持ち。真野社長と、城ノ内副社長が教えてくれたの」

マネージャーの私ができることなんてささいなことだけど。
でも私は朔や、すずや、舞華さん、蓮見君。
彼らの夢の手伝いをしたい。

「だから、桜里。もう私に罪悪感なんて感じなくて良い。本気で、私をイギリスに連れて行くつもりなの?」

私の視線に、彼は苦笑した。

「本気ですよ。城ノ内皇が、このまま君を苦しめるならね」

優しい声音に、私は首を横に振る。


「苦しくなんかない。たとえ苦しくても、いいの。相手が好きな人なら分かち合いたいの」

「でも君はそうしなかった。ならどうして、彼から離れようとするんです?彼も同じ気持ちだとは考えなかった?」

桜里の言葉に、ハッとした。


『俺を頼れ』
『どうして、勝手に背負い込む』


あぁ、私は馬鹿だ。
皇だって、同じ。
相手を想って、自分が動くことを、犠牲だなんて思わなかった。

でも、それは皇を傷つけてたのかな。


「君達はお互い強情すぎるんじゃありませんか。
……雪姫のそういうところは、美雪ゆずりですね」

その名前を出した桜里の優しい瞳に、切ない光が浮かんだ。

桜里と私を繋ぐ、その存在。


私は微笑みを返した。

「今でも、愛してる?」

「君と同じくらい」

全然違うくせに。桜里の嘘つき。


「雪姫……君は」

桜里が口を開きかけた、そのとき。

「オーリ!」

エアリエルのスタッフが走って来て、彼に鋭く耳打ちした。
ショーももう終盤なのに、なにか、トラブルだろうか。

「……!」

桜里の表情が変わって。

「雪姫、来て」

私の腕を引いた。
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