君の名を呼んで
舞台裏に連れてこられた私は、わけもわからずに桜里を見る。
ショーの真っ最中の舞台裏なんてまさに戦争状態なのに。
行き交うスタッフやモデル達、ずらっと並べられたメイク道具に色とりどりの衣裳。
桜里はそんな場所の真ん中に私を引っ張って来て、真剣な顔でこちらを見る。


「雪姫、助けて下さい」

「は?」


桜里がそんなことを言って、私に布を押し付けた。

「予定が狂いました。モデルが一人足りないんです。それ着て、出て」

「な、」

何言ってるのお!?


混乱しまくる私を、着付けスタッフがぐいぐいと着替えスペースに押し込めて、恥ずかしがる暇もなくあっという間に着替えさせられてゆく。他のモデルは誰に見られようと平気で着替えているけれど、さすがに私には気を遣ってくれたらしい。
でもそんなことを認識する余裕も無い。
渡されたドレスにキラキラ光る繊細なレースを壊しそうで、抵抗なんてできず、カーテンから顔だけ出して私は桜里に叫んだ。


「桜里!?無理に決まってるでしょう!私ド素人以下だよ!?」


ランウェイなんて歩けないっての!


「カメラ前に出られる度胸があれば充分です」

「そんなのもうありませんっ」

だいたいこのショーのために桜里とBNPはずっと前から準備してきたんだ。
モデルが足りないなんてあるわけない!

私の心を呼んだかのように、桜里が言う。

「ちょっとした手違いですよ。
誤算というべきか、まあ想定内といえばそうなんですが」

「ごめん、桜里。ちっともわからない」

一人完結してしまう彼。
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