君の名を呼んで
ステージの先へたどり着いた瞬間に、皇が私を引き寄せて、左手を掴んだ。
そのままもう片方の手で、するりと私の薬指に指輪をはめる。
きらきらとした大きめの石のついた、銀色のそれに。

「え、あの、これ」

動揺を隠せずに、皇を見上げたら彼は平然と言った。

「小道具だ。後で返せよ」


……何よもう!
期待した私が馬鹿みたいだ。

思わず頬を膨らませかけて、ステージの上だと自覚した。
慌ててお客様へにっこり微笑む。

そんな私を横抱きに抱き上げて、皇はニヤリと笑った。


「ホンモノは、後でな」

「……え?」


い、いまの、どういう意味?


聞き返した私に答えず、皇の綺麗な顔が近づいてくる。
ああまた演出か、とつい瞳を閉じたなら。

唇に柔らかな感触ーー。


「……!」


彼の唇が私から離れた瞬間、目に入ったのは。
愛おしい人の優しい微笑みと、会場全体に降り注いだフラワーシャワー。
色とりどりの花びらが、舞い降りて、皆を埋め尽くす。


大きな大きな歓声が湧いたーー。
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