君の名を呼んで
***
皇に抱きかかえられたまま舞台裏に戻った私は、そこに揃った面々に唖然とした。


苦笑気味の真野社長。
ニヤニヤ、また女優台無しなすず。
複雑そうに微笑む朔。

そして、桜里。

何だか見た目は煌びやかな空間で、けれど妙な緊張感に包まれている。


真野社長が姿勢を正して、桜里に向かって口を開いた。


「梶原が白鳥さんに助けて頂いた賠償金は、BNPがお返しします。ですから、彼女を返して頂けませんか。我々には、彼女が必要なんです」

社長の言葉に、すずが、朔が、しっかりと頷いた。

私は皆の気持ちに涙が出そうになる。

彼ら俳優達ならともかく、マネージャーの私なんて代わりのきく存在だと思っていたのに。
必要だと、言ってくれる人がいる。それが、嬉しくて。

私が女優を諦めたことも。
BNPと出会えたことも。

ーー皇を好きになったことも。

全部が必然だった。
その結果、こうして私を想ってくれる人達がいる。


ねえ、桜里。
あなたといられなかったことも、私には必要な道だったんだよ。
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