君の名を呼んで
皇が私を降ろして、けれど腰を捕らえる手はそのままに桜里を見る。
離れない温もりは、絶対に渡さないと、そう言ってくれているようで。

それを見つめていた桜里は、溜息混じりで口を開いて。

「私は、最初から雪姫の幸せだけを願っていますよ」

彼の言葉に、皇が顔を歪めた。


「てめえは一体何様のつもりだ。
だいたい金で雪姫を買おうなんざ、ロクな考えじゃねぇだろーが」


桜里が、にっこりと微笑む。



「……“お父様“」



その場が、凍りついた。


……。


「いま、なんつった?」


皇が、顔を引きつらせて、問う。


「だから、僕は雪姫の正真正銘、血の繋がった実父です。父が愛する娘の為にお金を使って、何が悪いんです?」


桜里の、その発言に。



「「「えええぇぇっっ!?」」」



その場の面々から、悲鳴じみた声が上がった。
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