君の名を呼んで
「だって私そんなお金払えませんし!」

「お前はそういう女だよな……っ。俺がどれだけ嫉妬したと」


へ?


思わず、といった様子で皇の口から飛び出した台詞に、私達はあんぐりと口を開けた。


「……今、桜里に、嫉妬したって言いました?あの、城ノ内副社長が、私のことで振り回されたって?」

だんだん頬がゆるんできた私に、しまった、という顔をして皇が睨む。

「ニヤニヤするな、馬鹿」

もう遅いもんね~!

しかも私だけじゃない、そこに居た面々は皆笑いを堪えきれず。
すずはもう女優だなんて完全に忘れたような顔してにやけっぱなし。
結局真野社長から笑い出してしまって、その場は先ほどまでが嘘のような、柔らかな雰囲気に包まれた。
皇は不機嫌だったけれど。


やがて桜里が微笑んだ。

「城ノ内君の覚悟は見せて頂きましたから、後は雪姫の意志に任せます。最初から、そのつもりでしたし」


桜里の言葉、行動ひとつひとつが、全て私を想ってしてくれたこと。


「ありがとう、桜里」


そう言った私を見つめて、彼は嬉しそうに、でもどこか寂しそうに笑って私の言葉を待ってくれる。

気がついてるんだね。私の答え。
きっと、最初から。

「ごめんね。私はイギリスには行かない。ここに居たいの」


そう告げた私の手を、皇が握り締めた。
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