君の名を呼んで
今でも思い出す。
『行かないでぇ!!』と泣き叫ぶ、娘の姿。


そう言う白鳥を、俺は黙って見ていた。
煙草に火をつける。


「恨まれても憎まれても、仕方ないと思っていましたが……」

白鳥は視線を揺らす。
ああ、雪姫がよくやる仕草。
傍に居なくたって、こんな風に似たりするのか。


「雪姫が何故、役者を辞めたかわかりますか?」


不意に彼がそんな事を聞いた。

「演技が下手くそだからだろ」

「まあ、それも有るかもしれませんが」

白鳥が苦笑する。

「エアリエルとの契約で、僕の情報はクローズされ、雪姫はいわば隠し子扱い。僕はエアリエルの専属モデルになりました。
雪姫は、このまま自分が女優としてメディアに出ると、僕に不都合な事になると気がついたんです。
だから役者を辞めて、僕を“お父さん”と呼ぶ事も無くなった」


雪姫。
お前、やっぱり馬鹿だ。

そうやっていつも、自分より周りの人間ばかり大事にする。
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