君の名を呼んで
白鳥は静かに言葉を続ける。


「三年前、美雪が病気で亡くなって、僕はそれはもう後悔しましたよ。エアリエルのオーリを否定は出来ませんが、何故大事なものを手離したのかと」


三年前、雪姫がBNPに入る前。

あいつも、大事な家族を失って、独りだったのか。
今更ながら、俺は自分のことばかりで、雪姫のことを何も知らなかったのだと気付く。


「エアリエルとの契約期間が終わって、再契約時に娘の事を認めさせることが出来たので、やっと雪姫を迎えに来たんです。……そうしたら、彼女は君のような男に捕まっていた」

「悪かったな」

じとっと向けられる視線を、煙草の煙でかわした。


「君がいつまでも逃げつづけるだけの男なら、雪姫を任せるなんて絶対にしませんが」

白鳥が、苦笑する。

「まあ今回は、大目に見て差し上げますよ」

雪姫の父親はそう言って、少し淋しそうに微笑んだ。

俺は彼の背中を見送って、残った煙草を消す。


白鳥は雪姫のところへ行くんだろう。
親子の時間を邪魔するつもりなんて無いが。


雪姫。
今すぐお前を抱き締めたい。
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