君の名を呼んで
さっきまでの呆れ顔は、もっと複雑な色に変わって。
唇に、彼のキスが落とされた。

優しい、触れるだけの、羽みたいなキス。

何度も、何度も。


「周りばかり見るなら、俺のことだけ見てろ。他人のことを想うなら、俺を想え。そうやって、俺でいっぱいになればいい」


……なんてことを。


「どこまでも、傲慢鬼畜デスネ……」

せめてもの抵抗で、呟けば。

「そういうの、嫌いじゃないくせに。顔、赤いぞ」

愉しそうに言う皇。


悔しいけど、ムカつくけど、その通りよ。
もう私の瞳には、あなたしか映ってない。
……わかってるくせに。

皇の優しいキスがなんだかくすぐったくて。
けど、物足りなくて。

つい、彼の胸元を掴んで、キスを返す。

なのに、皇はそのまま。
つい、じとっと見てしまう。

「なんだよ」

「だって」

私が求めてることなんて、お見通しなくせに。

「おねだりの仕方があるだろーが。
たまにはお前から誘えよ」

ニヤリと笑う“城ノ内副社長”。


くっ!!い、意地悪だ!!
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