君の名を呼んで
どうにか反撃してやりたくて、私は彼を見上げて言う。

「……くち、開けて下さい」

言われた皇は一瞬、驚いた顔をして。
けれど愉しげにその唇を開いた。

私は背伸びして、いつも彼がするように、首を傾けて、唇を重ねる。
角度を変えて、舌を差し入れて。深く深く絡ませて。唇を軽く噛んで。

「……っ」

いつの間にか、仕掛けたはずの私のほうが息があがってしまう。
生理的に浮かんだ涙を、皇の指が拭っていった。


「……馬鹿。こんなとこでそんなキスしたら、止まらない」


皇はもうニヤニヤなんかしてなくて、真剣な瞳で私を見つめている。


「場所を考えて下さいよ、エロ副社長」

「……お前は時々ほんっと~に残酷だよな」

がっくりと首を倒す彼。
やった!反撃した!

ひそかにガッツポーズ。
けれどそんな私の優越感なんて一瞬でぶち壊す強さで、皇が私を抱き寄せた。


「ーー!!」


さっきのキスなんて、おままごとみたいに感じてしまうくらい、激しくて強い熱を込めて、彼の唇が私の口を塞ぐ。
どんな出来過ぎ配置なのか、ちょうどそこにあったソファの上に押し倒された。

「んーーっ!!こ、皇っ、ちょっ、まっーー」

「誘ったのはお前」

そうしろって言ったくせに!
この、負けず嫌い!!

「鬼畜、変態、傲慢……」

「はい、そろそろ黙りましょーか」

……もう。


「黙って俺に抱かれてろ」

……。


私は幸せな命令に翻弄されて。
結局逆らえずに、目を閉じた。
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