君の名を呼んで
城ノ内副社長が私を呆れたように見た。

「真野は朝から居ねえけど」

ああっ!そうだった、出張だった!

「か、勘違いでしたあ……」

私はまたじりじりを再開した。


けれど、

「城ノ内さん、いいでしょう?」

おねーさまが城ノ内副社長に顔を寄せて、囁く。

近いよ、顔!
で、何で私を横目で見て、勝ち誇ったように笑うの?
どーせ私は色気無しですよ!
ゼロっていうか、マイナスよ!

片思いの頃とは違うけれど。
でもやっぱり、胸は痛い。

彼らに背を向けようとした、私に、


「雪姫」


もう一度響く、彼の声。
何なのよ。どうして引き留めるの。
こんなところ、見たくないのに。

「だから、何か御用ですか、城ノ内副社長っ」


その瞬間。


ポーン、とその場に響いた、午後6時の終業のチャイム。

「仕事の時間は終わりだな、雪姫?」

その悪戯めいた瞳に、彼の意図を悟る。


嘘、まさか、こんなとこで。

「返事しろ、雪姫」

こんな、怖すぎる視線の中で。


「雪姫」


ああもうーー!
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