君の名を呼んで
「こら、綺麗な顔が台無し。そんなこと言わないでね」


険悪だったロビーの空気を一新するかのように、優しく響く声。

「あらやだ、二ノ宮君!」


二ノ宮朔ーーBNPの看板俳優が、そこに立っていた。


「ダメだよ、彼女になんかしたりとかヤメてね?城ノ内さんに知られたらどんなことになるか。お姉さん達にはいつも明るくて優しく居てもらわないと」

まるで甘え上手な癒し系男子発言をするこの先輩。
だけどあたしにはわかる。
演技だ。思いっきり、演技。


「ええ~何もしないわよお」
「そうよねえ、やだな二ノ宮君たらあ」

すっかりいい気になったお姉様方がそれぞれ散って。


「……見事ですね、さすがアカデミー俳優」

あたしはしらっとした目を向けた。
さすがBNPイチの稼ぎ頭だ。


「まったく、女は怖いよな」

猫かぶりをはぎ取った彼は、呆れたようにため息をつく。

「まあ仕方ない。雪姫のためだ」


その言葉は、演技じゃない優しさが含まれていて、あたしは二ノ宮朔の顔を見上げた。

優しくて、切なげで。
ちょっとびっくりした。
< 196 / 282 >

この作品をシェア

pagetop