君の名を呼んで
泣きそうにしないでよ。

「藤城……?」

忘れてよ。

「なんでお前が泣くんだよ」

二ノ宮朔の指があたしの頬に触れて、涙を拭っていった。

「わかんないよお」


ごめん、雪姫ちゃん。
大好きなのに。私の一番大事な人なのに。

今はなんだか、羨ましいよ。

ただ静かに涙するあたしの隣で。
いつの間にか二ノ宮朔は微笑んでいた。

あたしの耳に届いた、優しい声。


「ありがとな、すず」


どっくん!!

と心臓が音を立てたのを、気づかれたかな。


すず、って。
一言呼ばれただけで。


「……仕方ない人ですね、先輩は」

「生意気だな、お前は」


そんな台詞と共に頭を撫でたりする彼に、またドキンとして。


ときめきなんて。
恋の始まりなんて。

案外すぐ傍にあるのかもしれないーー。
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