君の名を呼んで
副社長は余裕に満ちた目で、私を見下ろして。

「止めてやってもいい。お前が俺を好きだって言うならな。それとも朔のほうが良いか?」


……なんだその、完全上から目線。
しかも何なのその理屈。
なんで朔が出てくるの。

考えろ、雪姫。
ここで失敗したら、今後の私の生活は真っ黒。

う~ん。


ピコーン!
(シンキングタイム終了)


結論。


『私、からかわれてる』

よし。

「朔は関係ありません。女ったらしは嫌いです。
“その他大勢”になるなんて、ごめんです」

冷たく言った筈なのに。
彼はふっと微笑んだ。


「それ、好きって言ってるのと同じだろ」


城ノ内副社長の言葉に、内心ドキッとしたけれど、なんとか顔に出さずにやり過ごした(つもり)。


「ナルシストフィルターで変換しないで下さい。脳のウィルス除去したほうがいいですよ」

「梶原雪姫は素直じゃないな。お前なら俺が専属マネになってやってもいいのに」

「そんな特別待遇は要りません。私はマネする側ですから、城ノ内副社長」


イヤミを込めて。
名字と肩書きで呼んでやる。


「残念だなあ、雪姫」


どくん、と心臓が跳ねたのは。
近すぎる彼の艶めいた視線と、煙草の香りに酔ったからじゃなく、単にまた名前をいきなり呼ばれたからだと。

そう、思いたかった。
< 21 / 282 >

この作品をシェア

pagetop