君の名を呼んで
残業の城ノ内副社長を会社に残して、私は一足先に彼のマンションへ帰って来ていた。

「明日はオフだから泊まってけ、ついでに夕食作っとけ」

何だか話題を誤魔化した皇にそう命令されて、鍵を渡されたからなんだけど。
私はそのままそっとしておくことにした。
まあ、そのうちゆっくり話してくれるんじゃないかな、なんて思えるほどには、皇が落ち着いていたからかもしれない。


部屋のドアを開けたら、リビングの照明が点いているのが見える。

あれ、電気つけっ放し?

と、思いかけたと同時にリビングの扉が開いた。


「あれ~雪姫ちゃんじゃん」

「帝さん……」


明るいオレンジのパーカーは皇の部屋では見慣れない色で、思わずびっくりしてしまった。
どうしてここに、と思って、すぐに彼の姿を見て気付く。

そういえば、初めて彼に会った日、帝さんはこの部屋に自分で入ってきたんだっけ。
この部屋の合鍵を持ってるんだ。
皇はそんなこと言ってなかったけれど……忘れてたのかな。

とにかく私は彼に笑顔を向けて挨拶する。


「こんばんは……いらしてたんですね」

「そう。あっ、ご飯作ってくれんの?俺もーペコペコでさー」

帝さんは私の荷物を見て、受け取ってくれる。

「あ、すみません」

「ラッキー!さ、上がって上がって」


軽く言った帝さんはそのままキッチンへ向かった。
動揺を隠しながら私も後に続く。


「どうしよ……」


舞華さんや真野社長、皇の様子を見れば二人きりってあまり良くない気がする。
でも、いうなれば彼氏のお兄さんだもん。
あからさまに避ける態度なんてとりたくないし……ねぇ?
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