君の名を呼んで
キッチンに入って、買ってきた食材を冷蔵庫に詰めていると、帝さんが私をジッと見つめているのに気付く。

な、なんだろ。

私の疑問に気付いたのか、彼はにっこり笑った。

「雪姫ちゃん、どうやって皇を立ち直らせたの?あいつのことを舞華と身内以外で皇って呼ぶ子なんて君だけだよね」

首を傾げて言う帝さん。

「……私は何もしてませんし、できているとも思えませんよ」

言葉を選びつつ、答えた私に、帝さんは立ち上がった。
そのままゆっくり近づく。


「困るんだよね。結構面倒くさかったのに」


彼の言う言葉の意味がわからずに、私は思わずジッと見つめてしまう。
帝さんは足を止めない。
私のすぐそばまで来て、口を開いた。


「また、皇を壊さなきゃならない」


その瞳に恐怖を感じて。
私は立ち尽くした。


足が竦んで固まった私に、帝さんが指を伸ばす。
私の髪に触れた。くるりと指に髪を絡ませては落とす。
触れているのはそれだけなのに、何故かとても怖くて。

「……帝さんは、皇を嫌ってるんですか?それは、皇紀さんのため?」

その指を止めたくて、必死で言葉を紡ぐ。
帝さんは、冷たい目でふっと笑った。


「皇紀のため?俺はね、皇も、皇紀も大っ嫌いなの。
皇紀が死んで、目障りなのが減ったってのに、皇があいつの代わりなんかしやがって。
ムカつくから叩き落としてやったんだよ。“コウ”を。
そのままずっとドン底に堕ちてりゃ良かったのに、思わぬ白雪姫の登場だ」


帝さんは、皇紀さんのことも嫌いだったの?


それぞれの認識の食い違いに、妙に違和感を感じる。
< 216 / 282 >

この作品をシェア

pagetop