君の名を呼んで
「思ったよりへこまないね。意外に経験豊富?」

つまらなそうに言う彼を睨みつけた。

「あなたなんて怖くない」


怖くない。怖がる必要なんか無い。

蓮見君の時は、彼の行動の底に、私への気持ちが見えた。
私を捕らえようとする、意思が怖かった。

だけど帝さんからは、私への執着も、欲望も、なにも感じない。
私じゃない、『モノ』を見ているだけ。
ただ皇を苦しめるためだけに。

そんなのは怖くない。
ただ、怒りを感じるだけ。


「なるほどねえ、さすが皇の女だな。したたかだこと」

帝さんはくすくすと笑って、時計を見た。

……?なんだろう。


「そろそろ皇が帰ってくるかな」


つられて思わずリビングの時計に目を向けてしまった私の隙をついて、帝さんが私の腕を掴んだ。そのまま思いっきり引き寄せる。


「帰ってくるなら好都合。

あいつに雪姫ちゃんの啼き声、聴かせてやろうか」

耳に歯を立てて囁かれた言葉に、私は涙目で叫んでいた。

「変態!セクハラ!最低!」

「褒め言葉と受け取っておくよ」

誰がどう言っても、これらの言葉は決して褒め言葉ではないでしょうが!

その瞬間、私の手からあっけなくお玉は奪われてしまった。
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