君の名を呼んで
武器が無くなった私は後ずさる。
けれどすぐ後ろは壁。
冷蔵庫から皇のビールでも出して投げてやろうか、なんて思ったけれど、そもそもそんな隙を与えてくれそうにない。

帝さんは私から奪い取ったお玉をシンクに投げ入れて、余裕の微笑みを向ける。

「次はどうするの?」

「こ、来ないで下さい」

もはや乙女の危機というより、気分はホラーゲームの主人公。
けれどゲームと違って、私は非力で、お玉を奪われた今は武器も無い。
帝さんは私の言い分に笑った。

「そう言われて聞くわけないでしょ。つうか、逆に燃えるよね」

く、間違いなく皇の身内だわ!


「馬鹿なこと言わな……きゃ!」

いきなり彼の身体が私に近づき、私を壁に追いつめた帝さんは、片手で私の両手首を掴んで頭上に固定する。

「ちょっと!止めてってば!」

標本のようにがっちりと壁に縫い止められて、私は動けなくなった。

「はい、白雪姫、捕獲成功」

何がそんなに楽しいのか、にこにこと微笑みを浮かべたまま、彼は空いている方の手で私の腿を掴んだ。

「それでは美味しくいただきまーす」


ぎゃあああっ!
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