君の名を呼んで
「も~テンション下がった。みっくん退散しまーす」

突然帝さんはそう言って立ち上がると、キッチンを出た。
彼が姿を消して、そのまま玄関のドアが音を立て、本当に帰って行ったのだと気付く。


何、いまの。

帝さんの残した言葉が私の頭を巡って、落ちる。


皇が、皇紀さんを、殺した?
そんな、馬鹿な。


「……雪姫、大丈夫か」

ポツリと呟いた皇に頷いて、

「はい……」

けれど彼のシャツの背中を掴んでいた手から、なかなか力が抜けない。
今更指先が震える。


「どうして帝さんはあんな事言うの?」

私は皇を見上げた。

私は聞かなきゃ。
皇がまた一人で悩む前に、苦しむ前に。
信じてる、って伝えるために。


「皇、私はあなたのことが知りたい」

まっすぐに彼を見て告げた私の言葉に、皇が溜息をついた。


「皇紀の死因は事故だ。……事実上はな」


重く重く私達にのしかかる、帝さんと皇紀さんの存在。
私が垣間見ようとするのは、間違いかもしれないけど。


「一緒に、悩みますから。帝さんにわかって貰いたいんでしょう?……私に踏み込ませて下さい」


ずっとこの人のもので居たいから。
そんな想いを込めて、彼を見上げた。

「雪姫……」

皇が手を伸ばして、私の足に触れた。


「その前に、消毒な?念入りに舐めてやるよ」

ニヤリと微笑んで、彼は言う。
今までのシリアスは!!?


「あ、あ、阿呆かーーッ!!」
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