君の名を呼んで
side皇

皇紀がモデルを始めたのは中学生。
五歳年上の帝と一緒にスカウトされた。


皇紀は最初から『桁違い』で。

すでに周りの大人顔負けのカリスマ性を発揮し、気が付けば海外のエージェントから誘いを受けて渡米。
それから各国で活躍していた。

元モデルの母は皇紀が一番で、彼に一緒について行き、会社経営をしていて仕事一番の父は、家庭を省みることなく。
母の期待に応えられなかった帝と、はなから応えるつもりも無かった俺は日本に放置された。

家庭崩壊、ってやつだ。

帝は滅多に家に寄り付かないし、俺も好き勝手して、たまに来る皇紀の電話が楽しみだった。


「皇、こっち凄えの。学校のより何倍もデカイプールついてる」

離れていようが、カリスマモデルだろうが、皇紀は俺の兄で、友達で、一番の理解者だった。

それが崩れたのは、皇紀と俺が二十歳の頃。

大学の女友達が俺の写真を勝手に雑誌に送り、ちょっとした騒ぎになった。
しかもそれをたまたま帰国していた母が見つけて、知り合いのカメラマンに撮って貰おうと強く勧められて。
そのカメラマンは俺に酷く興味を惹かれたらしい。


「俺は“コウ”よりお前さんの方を撮ってみたいね」

「うっせえよ、要らねーよ、変態」

「……皇、氷崎さんが人物撮りたいなんて言うの、めったに無いんだよ」


彼は皇紀の憧れのカメラマンだった。
皇紀は酷くプライドを傷つけられたらしい。


その出来事で、初めて皇紀と俺の間に亀裂が入った。
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