君の名を呼んで
「俺にはコレしかない。モデルで居ることだけが、“コウ”が俺の存在意義なんだ。
ずっとずっと努力してきた。なのに皇、お前は簡単にここまで上がってくるんだな」


なぜ?
母にも、皆にも、必要とされてるのは皇紀なのに。
そんなたったひとつの敗北が許せないのか。

それから皇紀は取り憑かれたように仕事を入れ、ウォーキングの練習に明け暮れ、世界中を回った。

いつかわかってもらえると思ってたんだ。
NYで皇紀がフラフラ道に飛び出したところを、車に撥ねられてあっけなく死ぬまではーー。


***


「過労だってさ。根詰め過ぎて、精神的にも追い詰められてたらしい」

ベッドの上で、私を抱き締めたまま、皇は溜息をつく。
……ちなみに本気で“消毒”されたかは想像にお任せします。

見上げた視線に、皇は苦笑いした。


「皇紀の葬式で、母が言ったんだよ。『そこに皇紀のスペアが居るじゃない。皇はそっくりなんだから、代わりに“コウ”になれるわよね?』だとよ」


私は思わず愕然とした。

「酷い……」


皇のお母さんの悪口なんて言いたくないけど、その時どんなに彼が傷付いたかと思うと、胸が痛い。
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