君の名を呼んで
「帝の言うように、皇紀が追い詰められたのは俺のせいかもしれない」

皇が私の腰に回した手に力を込めた。

「だから母のお気に入りを死なせたことに罪悪感を感じて、“コウ”の身代わりを始めたけどな。……無理だった」


真野社長の言葉を思い出した。

『自分が自分じゃなくなる』

彼はどんなに苦しんだんだろう。
名前を呼ばれるのさえ、嫌になる程。


皇が私の手を掬い上げて、指に口付ける。
そのまま強く、握りしめた。


「お前が俺を引きずり出すまで、ずっと皇紀から逃げられなかった」

私は今更ながら、何も分かって無かったんだと強く思う。
だけど、だからって、もうこの人の手を放せない。

「もう帝には関わるな……つっても向こうから寄って来るか」

皇がウンザリといったように天を仰ぐ。

「帝さん、『皇の彼女をメチャクチャにした』って……本当ですか」


私の問いに、皇は押し黙った。
私の髪を指に巻き付け、放す。
男の人がそんな仕草をするのが珍しくて、私はついつい見入ってしまって、その手が私の頬に触れるまで黙っていた。


「お前には、手出しさせない」


しっかり告げられた言葉に、胸が熱くなる。


「お前をめちゃくちゃにしていいのは、俺だけだからな」


……は?

一瞬で顔に浮かぶ、あのニヤリ。
どうしてこう、シリアスになりきれないのよ、この人は!

「今日はもうおしまいです!さっき散々、めちゃくちゃにしたじゃないですか!」

「馬鹿、あんなのリハだ。本番はこれから」


ジリジリ私の腰を引き寄せた彼から肩に落とされたキスに、私は思わず背中を反らす。


「帝に触られて、感じたりしてねぇだろうな」

「殴りますよ、グーで」


ちょっとの不安と、モヤモヤを抱えながら。
それでも私は皇を抱きしめていたーー。
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