君の名を呼んで
今すぐ選べ
***
side すず
城ノ内帝監督のCMが完成して、数週間。
「すずちゃん、観たよー。すっごく綺麗だね。いいじゃない」
「ありがとうございまーす!」
あたしは何度となく聞いた賛辞に、同じ笑顔で同じように頭を下げる。
んで、溜息。
嬉しいんだよ?
嬉しいんだけど。
もう一度溜息をつきそうになるのを我慢した。
自分が所属する事務所の廊下でも、人前である以上、浮かない顔をするわけにはいかない。
どこで誰が見てるか分からない、いつだってパーフェクトでいなきゃ。
それを優しく諭してくれたのも、雪姫ちゃんなんだけど。
だからこそ、廊下を曲がった先に居た女の子に舌打ちの一つも出なかった。我ながら自分を褒めてやりたい。
「あら、藤城さんじゃない。観たわよ、ご活躍。良いわね、CGって何でも出来て。三割増し、詐欺かってくらい綺麗だったわ」
嫌味ったらしく言って来たのは、同期のタレント。
クソ、嫌味言うくらいなら、最初から素直にムカつくって言えば良いじゃないのよ。
あたしはにっこりと笑う。
「そうね、ありがとう。見た目だけでも綺麗にしなきゃね。CGでもどうしようもない酷い性格は直せないし」
しっかり目を見て言ってやったら、相手はかなり頭にキタらしい。
視界の隅に振りかぶる手が見えた。
「生意気っ」
乾いた音が響くーー。
けど振り下ろされた手を私は両腕に受けた。
「女優の顔を簡単に殴れると思わないでよね」
商売道具なんだと思ってるんだ。
けれどあたしのその態度は、相手には更に怒りを煽るものだったみたいで。
「ムカつくのよ、あんたは!」
事もあろうか、相手はクラッチバッグを振り上げた。
ええ、そこまでやる?
やば、金具付いてるし、ビーズだらけだし。
てゆーか今あたし、かなりまずくない?
なんて冷静な頭に、顔を庇って両腕を上げた。
side すず
城ノ内帝監督のCMが完成して、数週間。
「すずちゃん、観たよー。すっごく綺麗だね。いいじゃない」
「ありがとうございまーす!」
あたしは何度となく聞いた賛辞に、同じ笑顔で同じように頭を下げる。
んで、溜息。
嬉しいんだよ?
嬉しいんだけど。
もう一度溜息をつきそうになるのを我慢した。
自分が所属する事務所の廊下でも、人前である以上、浮かない顔をするわけにはいかない。
どこで誰が見てるか分からない、いつだってパーフェクトでいなきゃ。
それを優しく諭してくれたのも、雪姫ちゃんなんだけど。
だからこそ、廊下を曲がった先に居た女の子に舌打ちの一つも出なかった。我ながら自分を褒めてやりたい。
「あら、藤城さんじゃない。観たわよ、ご活躍。良いわね、CGって何でも出来て。三割増し、詐欺かってくらい綺麗だったわ」
嫌味ったらしく言って来たのは、同期のタレント。
クソ、嫌味言うくらいなら、最初から素直にムカつくって言えば良いじゃないのよ。
あたしはにっこりと笑う。
「そうね、ありがとう。見た目だけでも綺麗にしなきゃね。CGでもどうしようもない酷い性格は直せないし」
しっかり目を見て言ってやったら、相手はかなり頭にキタらしい。
視界の隅に振りかぶる手が見えた。
「生意気っ」
乾いた音が響くーー。
けど振り下ろされた手を私は両腕に受けた。
「女優の顔を簡単に殴れると思わないでよね」
商売道具なんだと思ってるんだ。
けれどあたしのその態度は、相手には更に怒りを煽るものだったみたいで。
「ムカつくのよ、あんたは!」
事もあろうか、相手はクラッチバッグを振り上げた。
ええ、そこまでやる?
やば、金具付いてるし、ビーズだらけだし。
てゆーか今あたし、かなりまずくない?
なんて冷静な頭に、顔を庇って両腕を上げた。