君の名を呼んで
今すぐ選べ
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side すず

城ノ内帝監督のCMが完成して、数週間。

「すずちゃん、観たよー。すっごく綺麗だね。いいじゃない」

「ありがとうございまーす!」

あたしは何度となく聞いた賛辞に、同じ笑顔で同じように頭を下げる。
んで、溜息。


嬉しいんだよ?
嬉しいんだけど。


もう一度溜息をつきそうになるのを我慢した。

自分が所属する事務所の廊下でも、人前である以上、浮かない顔をするわけにはいかない。
どこで誰が見てるか分からない、いつだってパーフェクトでいなきゃ。
それを優しく諭してくれたのも、雪姫ちゃんなんだけど。

だからこそ、廊下を曲がった先に居た女の子に舌打ちの一つも出なかった。我ながら自分を褒めてやりたい。

「あら、藤城さんじゃない。観たわよ、ご活躍。良いわね、CGって何でも出来て。三割増し、詐欺かってくらい綺麗だったわ」

嫌味ったらしく言って来たのは、同期のタレント。
クソ、嫌味言うくらいなら、最初から素直にムカつくって言えば良いじゃないのよ。
あたしはにっこりと笑う。

「そうね、ありがとう。見た目だけでも綺麗にしなきゃね。CGでもどうしようもない酷い性格は直せないし」

しっかり目を見て言ってやったら、相手はかなり頭にキタらしい。
視界の隅に振りかぶる手が見えた。


「生意気っ」


乾いた音が響くーー。

けど振り下ろされた手を私は両腕に受けた。


「女優の顔を簡単に殴れると思わないでよね」


商売道具なんだと思ってるんだ。
けれどあたしのその態度は、相手には更に怒りを煽るものだったみたいで。

「ムカつくのよ、あんたは!」

事もあろうか、相手はクラッチバッグを振り上げた。

ええ、そこまでやる?
やば、金具付いてるし、ビーズだらけだし。
てゆーか今あたし、かなりまずくない?


なんて冷静な頭に、顔を庇って両腕を上げた。
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