君の名を呼んで
「すず?」

二ノ宮朔は戸惑いながら、あたしの名前を呼んで。
やがて苦笑しながらあたしの頭を撫でて。

「誰も、言ってくれなかったの。
皆『映像すごいね、綺麗だね』って、評価されたのはアタシじゃなくて、変態監督の力なの。
あんな奴でもホントに凄くて、悔しくて悔しくて」


一度口から出た泣き言は、かっこ悪いことにボロボロこぼれ落ちて。

ずっと悩んでた。
あたしは、ちゃんと出来てたんだろうか。

もちろん、雪姫ちゃんはあたしを褒めてくれた。
でも彼女はやっぱりあたしのマネージャーだから、客観的な意見として聞くのとは違う。


「映像が綺麗だって違和感なく観られたのは、演じてたすずがそれに溶け込むくらい、息の合った演技をしてたからだろ。いい仕事したな」


優しく笑う二ノ宮朔。
どうしてこの人は、あたしの聞きたい言葉を言ってくれるんだろう。


「お前って根性あるくせに、意外と泣き虫」

そんなふうに言う彼に、

「二ノ宮先輩の前だけですよっ」

涙を拭って微笑んだ。

「でも……ありがと」

小さく呟いた言葉に、二ノ宮朔は少しだけ目を見開いて、あたしをじっと見つめていた。


「……な、何」


き、気付かれたかな、あたしの気持ち。

カメラ前ならすんなり出る演技も、今は何も出来なくて。動揺が、ドキドキが、モロに顔に出てる気がした。
二ノ宮朔はそんなあたしを見透かすかのよう。

やがて穏やかに、笑った。


「本当に……放っておけないよ、お前は」


あたしの頭を撫でる彼の手が、一層優しくなったような気がした。
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