君の名を呼んで
思いっきり見開いた目に、城ノ内副社長の姿が映る。
ただ冷たいその目。

気がつけば、私の手はガタガタと震えていた。

「おい、城ノ内。梶原ちゃんがそんなことするわけ」

副社長のあけすけな言葉に、私を問い詰めるはずの社長のほうが慌ててる。


「俺は梶原に聞いてる」


雪姫、でもなく。
からかいも含まず。

半開きの扉の向こうで、社員たちが好奇心に満ちた目で、聞き耳を立てているのをわかっていて。

「わたし、は」

そんなことするはずない、って社長が言ってくれたようにはーー信じてもらえなかった?

私は、彼の信頼を失ったんだ。

ーーそもそも、最初から信頼なんて、無かったのかもしれない。
捏造なんて見慣れているはずの彼でも、私は信じてもらえないのか。


ーーひどく惨めだった。


目の前の現実が、遠くの出来事みたいに見えて。
この場から逃げ出したい。
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