君の名を呼んで
店の中に入ると、笑顔の上品な店員さんが私達を迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。婚約指輪をお探しとのことですが、ご希望は?」

その言葉に、本気だったのかと皇を見上げたなら、彼は私にショーケースを示す。

「気に入ったのがあったら言えよ」


……うわあ。

真っ赤な顔を自覚しなから、とりあえず並んでいる指輪を見て。


……な、なにこれ。


「なんだよ」

私の表情に気づいた皇が聞いてくる。

「だ、だ、だってお値段がっ」


給料3ヶ月分とまではいかないにしろ、確実に1.5ヶ月か2ヶ月分。
生々しいけど、でも、こんな値段の物、簡単にねだれない!!
私の今までの生活には無かった価格帯なのよおお!!


「お前なあ。俺は誰だよ」

「……BNPの、城ノ内副社長です」


そりゃ私よりは高給取りだろうけど!!


私はなんとも冷静に見られずに、やや離れてショーケースを眺めていた冴木夫妻の会話に耳を傾けてみる。

「ああ、このネックレス可愛いな。遥に似合いそう」

「そう?」

「これ、買っていい?誕生日だし」

「……今月は“玲一の”誕生日よね」

「うん、だから。これつけた遥が欲しいな、誕生日に」

「……っ!!」


あ、甘い、甘すぎる。
プライベートでの冴木先生のキャラってこんななの?
奥さん、真っ赤っかになってますが。
つうかなんか初々しくて可愛いなあ、遥さん。

なんて思っていた私は甘かった。
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