君の名を呼んで
「それじゃ、失礼しますね」

冴木先生はふ、と微笑んで、遥さんと寄り添って歩いて行った。
皇は煙草を取り出しかけて、ここが街中だと気付いたらしい。くしゃりとポケットに入れる。
眉をしかめて私を見下ろした。


「……おい、にやけるな、馬鹿」

「だって……」

珍しいんだもん。動揺する皇なんて。

「その先生が私に近づかないようにって、冴木先生に手回ししたの?それってやきもちですか?独占欲?」

「うるさい。黙ってろ」

ふふん、恐くないもんね!

ニヤニヤが止まらない私の頬を引っ張って、皇は駐車場へと戻りはじめた。
最初こそ苦い顔をしていたけれど、ふと思いついたようにちらりと流し目を送ってくる。


「そんな顔をするなら、覚悟出来てるんだろうな?今夜はどんな風に啼かせてやろうか」


……!!


さっきより真っ赤になった頬を押さえて。

「け、結構です」

「却下」

浮かれていた私は、一気に返り討ちにあった。

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