君の名を呼んで
ベッドの上に押し倒された私と、その私を見下ろす皇。

立て爪のリングは、皇の肌を傷つけそうで怖かったけど。
皇は私の指を見るたびに、ふ、と笑うから。
なんだか外すことができなかった。


「指輪なんて完全な独占欲だよな」


きらりと光るそれに唇を落として。


「なら私にも、独占させて」


皇の左手をとって。
同じように、けれどまだそこには何も無い薬指に口づける。

「結婚指輪は、お前の親父を倒してから」

皇の言葉に笑いがこみ上げた。

「倒すんですか?許してもらうんじゃなくて?」

彼らしいな、と思いながら、でもきっと、桜里も負けてないんだろうな、なんて。
見た目はそんなに変わらないもんね。
友達同士の喧嘩みたくなりそう。

「私も、倒さなきゃダメ?」

「お前はもうガツンとやっただろ、帝を」

皇が苦笑した。

そういえば、皇は帝さんからこの部屋の鍵を無事に返してもらったみたい。

というか、

「勝手に合鍵作るな馬鹿。今後俺の居ない隙に雪姫にちょっかいかけに来たら、ベランダから吊るすぞ」

って、怒られていた。


「嫌だよ!こんな東京タワーもスカイツリーも絶景な階からバンジーなんて!みっくん泣いちゃう!」

とか何とか言っていた帝さんがちょっと憐れだったけど。


「帝のことはずっと引っかかってたけどな……。俺の両親は俺に興味は無いから、気にしなくて良い」

哀しい言葉に、眉を寄せたけれど。

「それでも結婚したい女を紹介しようって思ったのは、お前のおかげだ」


あまりにも皇が柔らかく微笑むから、そうか、なんて納得してしまって。


「お前の遠慮のない、人の領域にずかずか踏み込むぶっ飛んだ度胸は、ある意味尊敬に値するからな。帝までぶっ飛ばすとは、いやー俺にもできねえな」

うう、それ褒めているの?
いつものセリフとはいえ、なんだかすっごく、馬鹿にされている気分なんですけど!


「そんな私に惚れてるくせに」

何度となく言われた台詞で反撃すれば、


「分かってるなら、おとなしく俺に捕まってろ」

またとんでもない言葉に結局黙らされて、止んでいたキスが再開された。


やっぱり皇を引っ掻いてしまいそうなリングは怖かったけれど。

小さな間接照明だけの薄暗い部屋で、反射してきらきらと輝くその薬指の光に。


泣きたくなる程、幸せを感じた。
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