君の名を呼んで
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広尾の高級住宅街。
真っ白な壁の大きな一軒家。
そのこれまた広々としたリビングルームに通された私は。

……ありえないくらい、緊張していた。


「皇っておぼっちゃまだったんですね……」

「馬鹿」


でも、一般家庭より遥かに広くて高級そうなインテリアに囲まれた家なのに、人の気配がまったくしない。
お茶を運んで来てくれた年配のお手伝いさん一人と、皇のお母さんが暮らしているらしい。

「父は殆ど会社か、会社近くの別宅に居るから」

なんて言って良いか分からない私に、皇は何でもないようにそう教えてくれた。
それでも今日はご両親二人とも時間をとってくれたよう。


重々しい扉を開けて、二人が入ってきた。
皇のお母様は元モデルというだけあって、凄い美人。
背も高くて、少し冷たく感じる目が皇に良く似ている。
お父様も、凄く格好良い。しかめられた顔は迫力があるけど。

皇が二人を見据えて、口を開く。


「電話でも言った通り、俺はこいつと結婚するから」

「初めまして、梶原雪姫です」

私は慌てて名乗る。


「皇の父だ。こちらは妻、皇の母親」

深々と頭を下げた私の前で、お父様がそう言って二人はソファに腰を下ろした。

「挨拶に来てくれたのは有難いが、私はこのあと会議でね」

時計を見る夫を横目で見て、皇のお母様が言う。


「別に勝手にしたらいいじゃない。皇は私の言うことなんか聞かないでしょう?モデルだって勝手に辞めて、何も言わずに家を出て」


お母様は、色々な感情を吐き出すかのよう。
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