君の名を呼んで
だけど私は

朔のために、
朔の名誉のために、
ちゃんと弁解しなくてはならない。

震える唇を、深呼吸で抑えつけて。


「違います。
送迎の際に私が転んで、二ノ宮さんに助けて頂いただけです。
私の不注意で、申し訳ありませんでした」

深く、
深く頭を下げた。

朔にあんなこと言ったばかりなのに。
マネージャーの私が誰よりも気を遣わなきゃいけなかったのに。
危うく、私は朔の未来に汚点を残すところだった。

そればかりかこのネタを買い取った、って言っていた。
会社に損害を与えた責任もある。


そして

何よりも、城ノ内副社長の瞳が
私をうちのめした。


ーー目が、合わない。


城ノ内副社長が、私を見ない。


「とりあえず、今日は帰れ。ほとぼり冷めるまで、朔には他のヤツをつける」

副社長の声が遠くに聞こえて。
自分の返事もロクに思い出せないままズルズルと社長室を後にした。
まわりの社員達の視線に耐えきれなかったから、帰宅してもいいと言われたのは、正直助かったと思う。

「梶原さん、顔色悪いよ、大丈夫?」

あまりの副社長の態度に却って同情をひいたのか、気遣わし気に声を掛けてくれる人も居て、少し救われた気になったけど。

私、何してるんだろう。
朔のマネージャーなのに、あんなに頑張っている彼の足を引っ張って。
あげく、城ノ内副社長にまで見限られた。
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