君の名を呼んで
彼女は私なんて目に入らないみたいに、俯いたまま。
その綺麗な指先が、神経質そうに何度も組み直される。

「男は良いわよね、仕事仕事って。私はどこにも逃げられないのに」


その言葉に、ふと広いリビングを見回した。

この広い家を、ひとりで守っている妻であり、母である彼女。
ふと、自分の母を思い出した。
桜里のそばに居られなかった母を。


お母様は顔を歪ませて吐き捨てる。

「だいたい本当に仕事なんだか。皇も帝も女グセの悪さまで父親に似たのね」

「やめないか」

彼女の言葉に苦々しくお父様が口を挟んだけれど、止まらない。

「あら、都合が悪くなるといつもそうね」


なんだか私はいたたまれなくなって。
ご両親の顔から目を逸らそうとして。


でも、次の言葉は、スルーできなかった。


「あなたは“コウ”なのよ?芸能プロの副社長だかなんだか知らないけど、意味ないわ」

お母様が言った一言に、隣に居る彼の気配が怒気に包まれた。


皇が口を開こうとした、瞬間。



「意味無くなんて、ないです」
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