君の名を呼んで
社長室を出たところで、朔とバッタリ会って。
彼は一瞬目を見開いたけれど、私がそこに居た理由はすぐに分かったらしい。

「雪姫、聞いたよ。……おめでとう」

柔らかく頬笑む朔に、複雑な思いが込み上げる。

ずっと見守ってくれた朔。
『ごめんね』はきっと、違うよね。

だから、ただ頬笑みを返した。


「ありがとう、朔」


朔の手が、私の頭を撫でることはもう無い。
私が朔の前で泣くことも、もう無い。

甘えてちゃいけない。

朔に貰った優しさも、すずに貰った信頼も全部、私はマネージャーとして彼らに返していくんだ。


「仕事、頑張るから。これからも、よろしくね」

私の精一杯の感謝に。


「幸せになれよ」


朔の言葉は、どこまでも優しかった。
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