君の名を呼んで
***

雪姫が去った後で、朔は息を吐いた。

演技力には自信がある。

きっと雪姫には、彼の切なさには気付かれていないと思いたい。
……気付いても、気付かないフリをしてくれるのが、雪姫だからな。


けれど、思ったよりショックじゃない。
それは多分ーー。


「先輩、またンなとこでたそがれてる~」


ひょこりと顔を出した、小生意気で可愛い後輩。
軽口に紛れさせても、その目に浮かぶ気遣わしげな色は隠せてなくて。

女優のくせに。

そう思って苦笑いする。


「たそがれてないっての。撮影行くぞ、すず」


それは多分、騒がしい彼女のおかげ。


雪姫、俺も前を見るからさ。

幸せになれよ。
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