君の名を呼んで
***

皇より一足先に仕事を早退して引っ越しを終えた私は、彼の部屋で荷物の整理をする。
もともと広めの1LDKだし、家具の少ない彼だから、私の荷物をいれたところでそんなに狭くは感じない。

私が持ち込んだDVDやCDを皇の棚に入れさせてもらおうとして。
後ろにもう一段、DVDが並んでいることに気付く。

「エロDVDだったらどうしよう」

なんて呟きながら、それを取り出してみたなら。


『スーパーヒーロー戦隊シリーズ』


……。

これって。

「わ、私の出演作……」

それから超マイナーな深夜枠ドラマ。
ちょっぴり脇役で出ただけのドラマや映画まで。

「ある意味エロDVDより大打撃……」

羞恥プレイですよ!

「コッソリ処分……したらバレるかな」


「人の秘密を暴いたあげく、勝手に隠滅の算段とは。……偉くなったもんだなあ、雪姫」


背後から響いた声に、ビクッと振り返れば。


「お、お帰りなさ~い、皇。随分早かったんですね?」


腕組みして立っていた、部屋の主。
皇は私の手から、DVDを取り上げる。


「安心しろ、成人してからは特に邪な目的では観てねーから」

「ど、ど、どーゆー意味ですかっ!」


じゃあ成人する前は、と聞く勇気も無く、私は自分の荷物の片付けに戻る。

「んなの、後にしろ。何のために俺が早く帰ってきたかわかってんのか」

煙草も出さず、コートも着たまま皇が私を見た。


「お前が時間外受付はヤダとかぬかしたからだろ。……行くぞ、区役所」


あ。
思わずドキドキと高鳴る胸。

クリアファイルに入った用紙に書いた、皇と私の名前を見つめて。


「……はい!」

勢い良く頷いた。
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