君の名を呼んで
「やっぱり城ノ内君にはもったいない。だいたい本番ではやらないって言ったじゃないですか」

なんて言う桜里を見上げて、私は口を開く。

「そんなこと言わないでよ。……私のたった一人のお父さんなんだから」

私の言葉に彼は驚いたように目を見開いて、それから私を強く抱き締めた。
その瞳が確かに潤んでいるのを見て、私も彼を抱き締め返す。


「おい、人のオンナから離れろ」


そんなとんでもない台詞と共に現れたのは、私の旦那様。

長身をタキシードに包み、色気に満ちた視線を送る姿はこの上なく格好良いのに。
そのナナメ上から見下ろして、腰に手を当てて立つ様子は尊大過ぎるほど尊大。

……ちっとも変わらないなあ、この二人も。


「……君は実の父親にまで嫉妬するんですか」

桜里の呆れた声に、皇はふっと笑う。


「てめぇは見た目からして世間一般の父親からズレてるんだよ。それに俺は雪姫が抱いてるならオス犬だってムカつくな」

「……皇、恥ずかしいですよ」


なんなの、その理屈。


私の言葉も聞かず、彼は私に手を差し伸べた。


「来い、雪姫。お前は俺のものだろ」


その姿は、相変わらず悔しいくらい格好良いから。


私はやっぱり逆らえない。



「……はい、皇」
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