君の名を呼んで
「い~じゃないですか。普通あんな可愛いアイドルに、名前をハート付きで呼ばれたらコロッといくものでしょう」

ノートパソコンを閉じて、書類をまとめながら言ってやれば、副社長はふん、と鼻を鳴らした。

「副社長と呼べばいい。どうせもうすぐ社長と呼ぶことになるがな」

アナタそれ、現社長の前で堂々と言いますか。
こちらも見た目は恐ろしく若い、年齢不詳ながら温和な笑顔で心理も魂胆も不明という、実に良くできた社長はにこりとしたまま言う。

「あはは、まだ城ノ内にこの椅子はあげられないなあ」

当然です!
ところが城ノ内副社長は煙草を咥えたまま、ニヤリと笑う。

「言ってろ、次の株主総会ではふふん、あれやこれやな手を使って、必ず俺が社長にのし上がってやるからな」

なにそれ、不正宣言?

副社長はずいっと私に近付いて、妖艶に笑った。
男のくせに無駄に色気を垂れ流して、少し分けて欲しい。


「それとも、お前も俺の名前を呼びたいのか、雪姫?」

「その口も一緒に綴じますよ」

手にしたホチキスをカチカチさせて言ってやれば、副社長は顔をひきつらせて身体を引いた。

こんな俺様、わけわからんこだわりのある人なんて、冗談じゃない。
面倒過ぎる。


……それに。


城ノ内副社長には、
決定的にどうしようもない“クセ”があるんだから。
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