君の名を呼んで
な、なに今の。

幻聴?

なんか凄く自意識過剰な発言が!!

図星だけど凄く肯定しづらい発言が!!

「……じ、じょーのうち副社長ぉ?」

思いっきり動揺。
なぜか私を睨みつけて、ジリジリと近寄ってくる副社長に。
私の背中に冷や汗が流れた。

肉食獣に追い立てられる小動物のように。
目を逸らした瞬間に喰いちぎられそうな緊張感を孕んで。

これホラーなの?それとも動物ドキュメンタリー?
とにかく逃げないと、すっごくすっごくまずい気がする。

「何を言っちゃってるんですか!?」

肯定も否定もできず、ただ追い立てられ。
背中がデスクにあたると、そのまま覆い被さるように副社長が私に顔を寄せた。

煙草の香り、が。


「気付かないとでも思ったか」


私の唇に移った。



意外なくらい、柔らかな感触と。
城ノ内副社長の長い睫に落ちる影。

彼の指先がデスクに煙草を押し付けて火を消した。

それに気がついた瞬間には、私はデスクの上に倒れこんでいて。

一瞬触れただけの唇に、またすぐに熱が落とされた。


今度は深く、深く。
煙草の苦味と共に、私の唇を食べてしまうかのように。


「……っ」


私は息をすることさえ忘れて。


ただ彼のキスを受け止めていた――。
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