君の名を呼んで
だけど、その悪魔に墜ちたのは、私。

だって、目が離せない。


「……っ」


ズキズキ痛むのは
押し付けられた背中なのか、心臓なのか、胃なのか。


一言。

皇、と。
名前を呼べばいい。

そうしたらこれは終わる。

城ノ内副社長は、名前を呼ばれるのが嫌いなんだから。
きっと口にすれば、その瞬間に私から興味を失う。
そうすれば見向きもせずに、ここを出て行くんだろう。

なのに、私はもう抵抗できずに、首筋をたどっていく彼の唇に翻弄されて。


「……」


理由のわからない涙が、
ぽたりと零れ落ちた。
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