君の名を呼んで
鏡に映る私に……散らばる赤い痕。

あの鬼畜副社長め、私の首筋から胸元まで、思いっきりキスマークを残してくれちゃってる!
刹那的なあの人のことだから、誰かに自分の痕を残すなんて、こーゆーこと、しそうにないのに。
うぅ、副社長に掛けてきちゃったカーディガンがあれば、まだマシだった……。

このまま何食わぬ顔してオフィスに戻るなんて出来ない。
だいたいどんな顔して、あの人と仕事をすればいいんだ!


「――サボっちゃおうかな……」


マネージャーとしての仕事がない今だからこそ、ふと口にしてしまった。
一度言ってみたら、もうそれしかないような気がして。

早退しようにも携帯しか持ってないし、荷物はオフィスだ。
幸いうちのオフィスにはメディカルルームがある。
しばらく休ませて貰って、皆が外回りとかで人が減ったら荷物をとりに行こう。


「すみません、しばらく休ませて下さい」

担当のドクターは二つ返事でOKをくれて、ついでに私の部署まで連絡までしてくれた。
しかし内線が鳴って、どこかのフロアで呼ばれたのか、立ち上がって私に言う。

「すみません、私出ますけど大丈夫ですか?」

「はい、少し休んで帰ります」

タイミング良く独りにしてもらえたのもあり、少し気が緩んで。
ベッドに潜り込んで考える。


「なんでこうなっちゃったんだろ……」


また涙が滲んだ、その時。


「雪姫、居るの?」


――この声。


「朔……!?」
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