君の名を呼んで
案の定、私と城ノ内副社長二人きりの車内は妙な沈黙に包まれ、居心地が悪くて仕方ない。
彼もこうなるって分かってるはずなのに。
なにか話題を探そうとした、私の隣で、

「お前、昨日大丈夫だったのかよ」

城ノ内副社長がポツリと呟いた。

「……え?」

私は思わず副社長を見てしまう。


「いきなり居なくなって、体調不良とかで早退されてみろ。そりゃ心配するだろ」

あぁ、そうだよね。しかもあんなことの後じゃ。

「すみません……」

他に言いようが無くて、私は彼に謝る。
城ノ内副社長が煙草を取り出しかけて、止めた。

「お前の荷物を取りにきたのは朔だった。……昨日はアイツに送って貰ったのか」

ぎくり、と身を固くした私に、副社長が気がつかないはずがない。
謹慎中だったのに、浅慮だと咎められるのが怖くて、ついビクビクとしてしまう。

「はい、偶然会って!凄く心配掛けてしまったみたいで」


私の言い訳を遮るように、つい、と。
副社長の指先が私の首筋に触れた。


……正しくはスカーフの下の、痕に。


「お前は誰のモノだよ?」


……なんで?

まるで嫉妬してるみたい。
ありえないのに。


「……あなたこそ、誰のものにもならないくせに」


私の口から静かに零れた言葉に、彼は目を見開いた。

「着きました。朔を連れてきます」

その顔をまともに見返すのが怖くて、私はまた、逃げ出した。
< 41 / 282 >

この作品をシェア

pagetop