君の名を呼んで
私は彼を押し戻そうとした。

ところが力強い腕は、ますます私を締めつけて離さない。
動揺した私は、セット裏ということを忘れて泣く。


「っ、他に、いっぱいいるくせにっ……二番も三番も百番も」

「一番欲しかったもんが手に入れば、もうお前しか要らねぇよ」


城ノ内副社長が真剣な顔で言うから。

「嘘だあ……」

「嘘じゃねぇって」


分かれ、鈍感女、と囁かれて。

唇が言葉を閉じ込めて。
止まらない涙に、仕事中なのにどうするの、と言いたかったのに。
それすらも飲み込んで、彼の手が私の髪に触れる。


文句も言わせてくれないなんて、どこまでもずるい人……。


私は何も言えずに、ただキスを重ねていた。
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