君の名を呼んで
おっと……。

私の担当女優、活動休業中のすずからの泣き言電話。
彼女がひとしきり叫び終わるのを待って、返す。

「……そんなことないよ。すずはうちの期待の女優だよ?半年休んだって忘れられたりしない」


実はこんな電話は初めてじゃない。

すずの不安はよくわかる。
……人気商売の業界で、メディアに出なくなることは命取りだ。
どんどん新しいものが、人が出て来る中で、自分だけ動けない。
人々から忘れられることは、彼女達にとっては何よりも恐怖だろう。

不安で、焦って、でも動けなくて、行き場のないストレス。
自分だけ世間に置いてきぼりにされたような、どうしようもない、寂寥感。
女優であるすずは発散する方法さえ、人目を気にしなくてはならない。

だから私は、泣きたくなったら私に電話するように、すずに言い聞かせていたのだけど。


「すず、大丈夫。たとえ一時的に忘れられたとしても、あなたの実力ならすぐに前以上に皆に望まれる。良い演技ができる。戻ってきたときには、私達だって全力でサポートするよ」

『ゆ、雪姫ちゃん、ほんとぉ?』

「ほんとだよ。すず、勉強わからないとこがあったの?」


すずがこんなふうになるのは、大抵受験勉強が行き詰まっているときだ。
彼女は小さな声で返してきた。

『……うん。たくさん』

「じゃ今日はそこにチェックして、ホットミルクのんで。明日家庭教師のミノリ先生に見せるんだよ。私からも先生に言っておくから」

『雪姫ちゃん、呆れない?』

「すずが誰よりも頑張ってるのは私が知ってる。絶対良いことが待ってるからね」

電話の向こうで、すずのほっと息を吐く様子がして。


『ありがとう、雪姫ちゃん』


うん、この子は強い。
たまにフラつくことはあるけど、ちゃんと自分で歩いてる。

私なんかより、ずっと――。


「ふぅん」


突然耳元で響いた、艶っぽい声。
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